本研究では、直線異方性を付与するための高分子フィルムの一軸延伸を行なっているが高分子フィルム系の一般的な多層配向構造評価に向けては、多層構造モデルとして用いる試料の作成等の実験条件を整えるのが予想以上に困難であることがわかった。そこで今年度は、まずMueller Matrix法の計算による予測と実験結果が一致しない場合があることの原因を精査した。その結果、延伸方法を改良し、完全な一軸延伸フィルムとして扱うことで、解析を容易かつ正確に行なうことが可能であることが明らかになった。そこで改めて、あらかじめ層構造が明らかなモデル系を組み立て、偏光変調分光法による測定結果とMueller Matrix法の計算結果を比較した。任意の配向構造を作り出せることが、高分子フィルムを用いた本研究の特徴であるが、様々な系に対してMueller Matrix法の計算に基づき測定結果を解析することによって、その配向構造を評価する方法をほぼ確立した。配向が膜厚方向に連続的に変化するといった延伸フィルムを用いてモデル系を組み立てる手法では厳密には再現不可能な場合に対しては、Mueller Matrix法による行列演算を用いて、得られるスペクトルを予想するという、シミュレーション的手法を取り入れた。実験との対比については困難な面もあるが、シミュレーションを用いる利点として、パラメータの設定などを工夫することにより、比較的簡単かつ単時間に高分子フィルムだけではなく液晶など、系の配向が重要な位置を占める場合のスペクトル予測に応用可能であることが挙げられ、今後さらに検討を進めると、興味深い結果が得られると思われる。
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