研究概要 |
1.α,ω-di(2-naphthyl)alkane(DNpn)の合成 Poly(2-vinylnaphthalene)の二量体モデル化合物として、メチレン鎖長nの異なる4種のα,ω-di(2-naphthyl)alkane(DNpn:n=3,5,7,12)を合成した。また、参照系としては2-ethylnaphthalene(2EtNp)を用いた。これらDNpnと電子アクセプターである1,2-dicyanobenzeneをacetonitrileに溶解し脱気したものを測定用試料とし、過渡吸収測定法によりダイマーカチオンの形成ダイナミクスと電荷共鳴安定化について検討した。 2.分光的測定法による電荷共鳴安定化エネルギーの鎖長依存性 上記試料の過渡吸収測定を350-2000nmにわたる波長範囲に対して行い、カチオン帯ならびにダイマー形成にともなう電荷共鳴(CR)帯を観測した。その結果、電荷共鳴安定化エネルギーは、2EtNpでは12.9kcal mol^<-1>、二量体化合物では鎖長3,5,7,12の順にそれぞれ11.5,12.2,12.4,12.4kcal mol^<-1>であった。メチレン鎖長が長くなるにつれ電荷共鳴安定化エネルギーが増大しているが、これは鎖長が増大するにつれて二つのNp基の配置に対するメチレン鎖の束縛が小さくなるため、より安定なダイマー構造をとることが出来るためであると考えられる。また、10kcal mol^<-1>を越える大きな電荷共鳴安定化エネルギーを有するため、閉環確率の小さなDNp5やDNp7に対しても分子内ダイマーカチオンが形成することが明らかとなった。この結果はPyreneエキシマーと異なり、Npカチオンの長い寿命に起因すると考えられる。 3.熱力学的測定法による電荷共鳴安定化エネルギーの評価 NpモノマーカチオンおよびNpダイマーカチオンのモル吸光係数を決定し、両者の濃度比[D]/[M]を過渡吸収法により観測した。DNp5,DNp7および2EtNpのvan't Hoffプロットを作成し、直線の傾きから分子内ダイマーカチオンの標準生成エンタルピーΔH°を求めたところ、DNp5,DNp7についてそれぞれ-6.6,-6.5kcal mol^<-1>であった。同様に2EtNpについて分子間ダイマーカチオンのΔH°を求めると-8.5kcal mol^<-1>であった。これらの値はCR帯から評価したものに比べいずれも小さい。これはCR帯による電荷共鳴安定化エネルギーの評価にはダイマー形成時の反発エネルギーを含むためであり、両者の差からダイマー形成過程におけるNp基の反発エネルギーはおおよそ4-6kcal mol^<-1>であることがわかった。また、ダイマーカチオンの形成速度定数の温度依存性を検討し、Arrheniusプロットからダイマーカチオン形成の活性化エネルギーE_aを評価し、おおよそ3-4kcal mol^<-1>であることを明らかにした。
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