アイソタクチック(it)ポリメタクリル酸(PMAA)とシンジオタクチック(st)ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)を適当な極性有機溶媒中で混合すると、立体的な構造適合により、it-PMMAをst-PMAAが取り囲む形で会合した二重らせん状のステレオコンプレックスを形成することが知られている。本研究では、まずit-PMMAとst-PMAAによる逐次的な超薄膜形成について検討した。次に、積層したポリマーの溶解性の違いを利用し、薄膜内からst-PMAAのみをアルカリ水溶液により抽出した。得られたホストit-PMMA超薄膜へのst-ポリマーの選択的な吸着挙動について解析し、ステレオコンプレックス超薄膜の構造複製について検討した。 微量天秤として知られるQCMをit-PMMAおよびst-PMAA溶液に交互に浸すことにより両ポリマーの積層が観察された。積層されたポリマーのユニット比(st-PMAA/it-PMMA)は2.1±0.2となり、コンプレックス形成したときの値と一致した。静的接触角の値もコンプレックス形成を支持した。得られた超薄膜をアルカリ水溶液に浸すと5分以内でst-PMAAの積層量に相当する重量減少が観察された。引き続きst-PMAA溶液に浸すと飽和型の再吸着が観察され、40分後に93%まで吸着した。アタクチックPMAAは吸着しなかった。さらに、コンプレックス形成が可能なst-PMMA、st-ポリ(エチルメタクリレート)(PEMA)およびst-ポリ(プロピルメタクリレート)(PPMA)の吸着を観察した結果、st-PMMAは40%程度吸着したが、st-PEMAとst-PPMAはほとんど吸着しなかった。以上の結果より、ホストit-PMMA超薄膜には、st-PMAA鎖を形状記憶した高分子鎖レベルの分子認識部位が存在し、複製機能を有することが明らかとなった。
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