研究概要 |
航空機部材等に使用されつつある層間靱性強化CFRPの力学的挙動を解析する際,積層板の各層間に形成されている樹脂層の弾性係数が必要となる.しかし,T800H/3900-2と呼ばれるタイプのCFRPでは,層間樹脂層は約30μmと極めて薄く,また樹脂層単体で成型することが不可能であるため,引張試験等の一般的な静的試験法で測定するのは困難である.そこで,今まで確立してきた超音波による定量評価法をさらに発展させ,層間靱性強化CFRPの樹脂層における弾性係数の同定を試みた. まず,T800H/3900-2の直交積層板から最外層のCFRPを研磨で除去することにより,0°/90°界面の樹脂層を表出させた.その後,表出させた樹脂層の表面で,適切な入射角と方位角を設定し,超音波スペクトラム顕微鏡によって超音波反射率を測定した.その結果,反射強度分布上に,漏洩ラム波の励起による極小点が入射角と周波数に依存して現れていた.そこで,これらの極小点に理論値が一致するように,樹脂層の最適な弾性率とポアソン比,密度,厚さを逆問題で求めた.その際,樹脂層は等方性であるとし,異方性を有するCFRP層の上に付着した2層構造であると仮定して,層状物質の表面での反射率を計算できるようにした.そして,計算による反射率から,実験結果に対応する極小点を抽出し,実験と解析の両者の極小点周波数が全て一致する最適な樹脂層の物性値を,非線形最適化(制約条件付きのシンプレックス法)によって同定できるようにした.その結果,樹脂層の弾性率・ポアソン比・密度・厚さを適切な範囲内に収束させて得ることができた.また,もし,樹脂層の密度と厚さを他の方法で正確に測定できれば,この方法によって得られる弾性率とポアソン比の収束精度は非常に高くなることも確認された.
|