本研究では、トランスバースクラックを有する複合材料積層板について、シアラグパラメータの時間依存性を考慮した粘弾性モデルを提案し、これを実験的に検証した。まず始めに粘弾性シアラグ解析を用いて、90度層のトランスバースクラック密度が負荷中に変化しない場合のクリープ変形モデルを構築した。具体的には、時間領域で得られた支配方程式(粘弾性構成方程式、平衡方程式、変位-ひずみ関係式)と境界条件をラプラス変換して、像空間での応力とひずみの分布を求め、これを逆ラプラス変換することにより原空間における積層板の機械的ひずみを畳み込み積分の形式で得た。実験的に得られた各層の軸方向およびせん断方向の緩和弾性率を与えて、数値逆ラプラス変換を用いて積層板のひずみを計算した。今回のクリープ変形モデルの妥当性を調べるために炭素繊維強化プラスチック(CFRP)クロスプライ積層板について110℃および150℃の温度環境下でクリープ試験を行った。いくつかの試験片にはクリープ試験前に予負荷を与え、90度層にトランスバースクラックを導入した。クリープ試験ではトランスバースクラック密度が一定であるように低い荷重を選んだ。またガラス繊維強化プラスチック(GFRP)擬似等方性積層板についても、同様の試験を行った。両積層板ともに、モデルによる計算結果は実験結果より小さなクリープひずみ増分を与えるが、モデルは初期クリープ曲線を除き、最終的なひずみについて妥当な予測を与えた。実験と計算結果の差異の主な原因は指数関数を用いた緩和弾性率の形にあると推察される。これらの結果から本研究で得られたクリープモデルの有効性が確認された。
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