前年度は、海水の流動計算が三次元計算によるものと、静水圧近似を施した物とは微細な格子においては有意に異なることを示した。またネスティング手法を用いて、広い領域から狭い領域へと接合し、狭い領域では三次元計算を行うプログラムを開発し、試計算を行った。本年度は、前年度に開発したプログラムを用いて、実際の海域での計算を試みた。しかし、実際の海域では計算は発散し、海水の流れをシミュレートすることはできなかった。その原因を調査したところ、三次元計算と静水圧近似計算は、微細な格子で有意な差を持つだけではなく、微細な格子においては、静水圧近似計算は特に密度差を考慮した計算を行うと、海面勾配による圧力勾配と、密度勾配による圧力勾配とがバランスし、その結果、非常に強く、非現実的な鉛直対流が起こることを示した。このことを考慮し、計算を行ったところ、これまでより安定な方向に向かったが、不安定性は消えることが無かった。この原因は、大きな格子に微細な格子を埋め込んで計算しする場合、微細な格子側に密度による撹乱源が存在するときには、大きな格子と微細な格子の間で反射波が発生し、微細な格子にはその反射波が幾重にも重なり合い、非常に大きな乱れとなることがわかった。ネスティングを施し、3次元計算が必要となる程度までに微細な格子を用いて計算するにおいては、より工夫が必要と思われる。 本研究では、深層水循環の計算を行うことが目的であったが、計算手法の開発に終始し現実の問題には適用することはできなかった。
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