黄豆ダイズの種皮着色突然変異体(以後、変異体と省略)ではいずれも色素合成に重要な酵素であるカルコンシンターゼをコードする遺伝子(CHS)群のうち、1つの遺伝子メンバー(ICHS1)を含む領域が欠失変異を起こしていることが明らかになっている。本年度は、ICHS1とともに欠失を起こす5'上流域をPCR法にようて増幅し、増幅断片について構造解析を行った。その結果、ICHS1のわずか680bp上流に5'コード領域の欠損したCHS(truncated CHS3と命名)が逆向きに存在することが明らかになった。黄豆ダイズの種皮着色抑制はCHSのジーンサイレンシングであることが示唆されている。興味あることにCHSを導入したトランスジェニック植物において、CHS同士が近距離で互いに逆向きに配置された場合にCHSのジーンサイレンシングが引き起こされることが報告されている。これらのことから黄豆ダイズに特異的に存在するtruncatedCHS3-ICHS1クラスター領域がCHSのジーンサイレンシングを引き起こしている可能性が示唆された。すなわち、黄豆種皮での着色抑制はCHSのジーンサイレンシングによりカルコンシンターゼが翻訳されず着色色素が生産されないことによるという仮説が考えられた。今後はtruncatedCHS3-ICHS1クラスター領域とCHSのジーンサイレンシングとの関係について詳細な解析を行う必要がある。その一方で、種皮着色突然変異がどのような機構で生じるかをさらに明らかにするために黄豆ダイズ品種"ミヤギシロメ"の変異体からも欠失型ICHS1領域を単離し、すでに単離・解析が終了している刈系557号および吉林15号変異体由来の欠失型ICHS1領域と比較解析を行う予定である。
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