イネ野生種が持つ栽培種に存在しない有用遺伝子を検出するため、以下の実験を行った。まず、野生イネの材料としてミヤンマー由来のOryza rufipogon W630を用い、2種類の典型的な栽培品種(O. sativa Japonica cv. NipponbareおよびO. sativa Indica cv. IR36)で交雑し、それぞれ約200個体からなるBC_2戻し交雑集団を作成した。次に、これらを圃場に展開し、出穂期、最大光合成能、桿長、穂長、有効分げつ数、、種子100粒重、籾長、籾幅、玄米長、玄米幅、収量の11形質について調査した。BC_2集団は様々な形質を調査し終わる登熟期まで、葉を大量にサンプリングできなかったので、各BC_2自植後代約15系統の幼葉をまとめて回収しDNAを抽出した。これらのDNAは鋳型として調整し、マイクロサテライトマーカー座についての遺伝子型を調べるためにPCRを行った。なお、使用したマイクロサテライトマーカーは交配親間で多型がみられ、ほぼゲノムをカバーしている約75マーカーであった。11形質についてのデータならびに分子マーカー座の遺伝子型のデータをもとに、量的形質遺伝子座(QTL)解析を行ったところ、有意となった領域はNipponbare戻し交雑集団では55ヶ所、IR36戻し交雑集団では51ヶ所見出された。これらのうち、それぞれ半数強の領域において、野生種の対立遺伝子が各形質の計測値を増加させる効果を持っていた。2つの異なった栽培品種の遺伝的背景においては、野生種由来のQTLは6領域で共通していた。収量に関しては、第1染色体上の1領域で検出された野生種のQTLが両集団において収量を向上させる効果を持っていた。従って、この野生種由来のQTLは栽培イネのJaponicaおよびlndica双方において収量を向上させる効果を持つ可能性が示唆された。
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