レンゲ萎縮ウイルス(MDV)はマメ科植物の病原ウイルスで、そのゲノムは、複数の1本鎖DNAからなるマルチパータイト(多粒子性)の構造をとっており、本研究はウイルスゲノムにおける個々のDNAセグメントの機能解析を目的とする。平成12年度は、ウイルスDNAを用いた遺伝子導入による感染系の確立を試みた。本来環状のウイルスDNAは適当な制限酵素によって線状化された形でプラスミドにクローン化されている。導入実験に際して、これらのDNAを一旦制限酵素で切り出し、直列に連結させた2量体の形(コンカテマー)へ再構築してプラスミドヘ挿入し直した。11種のMDV-DNA(C1-C11)のうち、C11がコードする遺伝子は、そのアミノ酸配列からローリング・サークル型のDNA複製に関与することが推定されていた。このC11と、既にウイルス外被タンパクをコードすることが明らかとなっているC9について、構築したコンカテマーDNAをAgrobacteriumにより遺伝子導入したところ、植物葉組織片中におけるトランジェントなDNA複製が確認された。さらにサザン・ハイブリダイゼーション解析により、C11は自身のDNA複製のみでなくC9の複製も行うことが明らかとなった。一方、ヘリウムガス圧式遺伝子銃を用いた植物苗へのウイルスDNA導入試験では、接種に用いるDNA濃度やガス圧および植物体の生育ステージ等、導入の諸条件を検討しDNA導入を試みたがウイルス感染は認められていない。この原因として、DNAがウイルス複製の場である維管束組織中まで到達していない可能性が考えられる。ガス圧や真空度なとの条件を再検討する一方で、当初予定に加えて、Agrobacteriumによる全植物体への感染実験を行うこととする。
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