本年度は、まず下唇腺細胞の電顕観察をおこなった。その際、下唇腺は外部形態が絹糸腺と似ていることから、組織を3つに区別し、それぞれ別々に観察した。その結果、全ての部位の基底部には厚い基底膜と顕著な細胞膜の陥入が認められ、内縁部にはよく発達したミクロビリーが観察された。部位Iは粗面小胞体が発達しておらず、またゴルジ体や細胞内顆粒(分泌顆粒)もほとんど認められなかった。よって前部絹糸腺と同じく主に導管部として働くと予想される。部位IIと部位IIIは共に発達した粗面小胞体と多数のゴルジ体、さらに分泌顆粒も多数認められた。さらに部位IIと部位IIIの腺腔内には繊維状の物質が観察された。よって両部位は物質生産部位であると考えられる。しかしながら、両部位の物質は形態が異なり、部位IIと部位IIIは異なる物質を生産・分泌している可能性がある。 幼虫期の下唇腺の腺腔内に存在する物質についても調査した。エビガラスズメ下唇腺では腺腔内物質が幼虫期と蛹室形成期で異なる。そこで、両ステージの代表的成分を単離し、性質を調べた。蛹室形成期からは2つの比較的高分子タンパク質を単離した。分子量はそれぞれ220kと180kで、両タンパク質とも糖成分を含んでいた。一方、5齢期の成分から分子量70kおよび76kの2成分を単離した。これらのN末端アミノ酸配列を調べたところ、両者に一致する部分は認められなかった。また、5齢期の成分はいずれも抗180k抗血清に反応せず、5齢期と蛹室形成期の成分の関係は遠いと考えられる。
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