昨年度の結果を踏まえ、今年度は下唇腺ルーメン内タンパク質成分についてさらに追究した。まず、5齢期の成分とワンダリング期の成分の比較をさらに行った。ワンダリング期から主要成分である180kタンパク質と220kタンパク質を、5齢期からは70kタンパク質を精製し、V8プロテイナーゼでそれぞれ消化して、ペプチドマップを作成し、比較した。その結果、同じワンダリング期の成分である180kと220kはほぼ同じパターンを示した。この結果は、両者が極めて近い関係にあることを示唆する。ところが、一方5齢期の成分である70kはまったく異なるパターンを示した。さらに180kと70kのアミノ酸組成を調査したところ、大きく異なっていた。さらに35Sでラベルしたメチオニンを用い、5齢期とワンダリング期における下唇腺のタンパク質合成を調べた結果、5齢期には70kを含む5齢期の成分をワンダリング期にはワンダリング期の成分をそれぞれ合成・分泌することが明らかになった。今回得られた結果とこれまでの結果から、エビガラスズメ下唇腺では、カイコなどの絹糸腺とは異なり5齢期とワンダリング期で合成・分泌する成分が切り換わることが分かった。そこで、切り換わりのステージを特定するため、5齢終期から3時間ごとに下唇腺ルーメンの成分を採取し、分析した。すると、ルーメン内成分はワンダリングから蛹室形成に至る一連の行動変化とよく対応して変化することが明らかになった。すなわち5齢期の成分からワンダリング期の成分への切り替わりは一時的な移り変わりのステージを経て、蛹室形成のステージに完全に切り換わることが示された。これは、ワンダリング機の成分が(繊維状タンパク質)が蛹室形成に何らかの役割を果たしているという予想とも一致する。今後はさらにそのメカニズムや制御機構について解明する予定である。
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