これまでの研究では、Rubisco大サブユニットが光照射下の単離葉緑体において活性酸素により直接断片化されることが明らかとなっていた。また同様の系においてRubiscoと同じストロマタンパク質であるGS2も活性酸素の1種であるヒドロキシルラジカルを介した反応により主に4つのフラグメントに断片化されることが見出された。本年度はこの光照射下の葉緑体で見出されたGS2の断片化が、ヒドロキシルラジカルの直接作用による切断か、それともヒドロキシルラジカルによる酸化修飾に起因した金属プロテアーゼによる分解かを明らかにするため、精製GS2タンパク質に対する活性酸素の効果について調べた。まずコムギ葉からのGS2の高度精製法について検討した結果、精製初期段階として葉緑体の単離を行うことで、異種タンパク質や分解フラグメントの混入が極めて少ない精製標品が得られることがわかった。そして精製GS2を金属イオンを介したヒドロキシルラジカル発生系の存在下でインキュベートしたところ、光照射下の葉緑体の場合と同一の相対分子量、等電点を有する39、35、32、29kDaの主として4つの分解フラグメントが出現した。この結果から、光照射下の葉緑体におけるGSの断片化が金属プロテアーゼによるものではなく、ヒドロキシルラジカルの直接作用によって引き起こされていることが強く示唆された。さらに、GSが断片化される際に、GS活性の低下が同時に認められること、GSの活性中心に不可逆的に結合するMSXの添加が断片化を完全に抑制することがわかり、この断片化が活性中心近傍で引き起こされている可能性が示唆された。
|