研究概要 |
根端からクエン酸等の有機酸を放出する現象は,酸性土壌環境に適応した植物種に広く認められると共に,作物のアルミニウム耐性及び難溶性リン酸利用能の系統間差を支配する主要因子と考えられている.申請者がこれまでの一連の研究で用いたニンジン培養細胞は,既報の小麦・トウモロコシなどの耐性品種の根端からの有機酸放出速度に比較しても早いクエン酸放出能力を有し,難溶性リン酸Alを可給態化する能力を明確に示す変異体である.この形質は細胞融合法により個体に直接導入可能な形質であったが,再生植物体の稔性の維持に問題を抱えるため,実際の育種に応用するためには,この細胞のクエン酸放出能力を支配する遺伝子を特定し,分子育種学的手法を適用することが必須であると考える. 当該年度は,遺伝子の単離・発現様式解析に重点を置き研究を進めた.概要は以下の3点である.1)生理学的な解析から,低リン酸耐性細胞はリン酸栄養環境などに応答することなく,常にクエン酸放出能力を高く維持している可能性が高く,クエン酸放出に関与する遺伝子群・タンパク質群は常に発現・若しくは抑制されていることが推定できた.2)通常のリン酸給源で培養した耐性細胞及び野生型細胞を材料として,細胞膜を水性2層分配法により高度に精製し,特異的に発現量の増加したタンパクを2次元電気泳動で解析した.その結果プロトンATP酵素の増加が認められた.3)特異的に発現が増加している遺伝子(クエン酸合成酵素)のプロモーターをインバースPCR法により単離した.
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