アミノアシル-tRNA合成酵素は、反応の第1段階で、対応するアミノ酸を、ATPにより活性化する。申請者は、ATP-PPi交換反応の速度論的解析から、Bacillus stearothermophilusのリジル-tRNA合成酵素(B. s. LysRS)のアミノ酸活性化反応は、リジンが先に結合するsequential ordered機構であることを明らかにした。さらに、B. s. LysRS変異体(W314F、W332F、W314F/W332F)を用いた実験より、基質結合の際に観測される蛍光変化はTrp314に起因することを明らかにした。酵素の反応機構を詳細に解析するためには、酵素自体の変化を追跡することが不可欠である。そこで、申請者は、まずTrp314の蛍光変化の原因を明らかにすることにした。上述の変異体に加え、活性部位に唯一存在するTyr残基をPhe残基に変換した変異体酵素(Y271FおよびW314F/W332F/Y271F)を新たに作成・精製し、基質結合によるUV-吸収差スペクトル、Trp残基の化学修飾、塩酸グアニジンによる変性、消光剤にまる蛍光変化を調べた。本実験から、(1)Trp314は酵素分子内に埋もれて存在するが、Trp332は酵素表面に存在すること、(2)Trp314の周りの疎水的環境は基質結合によりより親水的に変化するが、溶媒には露出しないこと、(3)Trp314は、酵素分子内に存在するが比較的溶媒に近い位置に存在することが明らかになった。さらに、また、W314F/W332FとW314F/W332F/Y271FのUV-吸収差スペクトルおよび蛍光スペクトル測定から、基質結合により活性部位に存在するTyr271の存在状態も変化することが示唆された。
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