T-2トキシンによるアポトーシスの情報伝達機構については学術雑誌に報告した(Biosci. Biotechnol. Biochem. 65(8)1741-1747(2001))。T-2トキシンを含むトリコテセン系マイコトキシンがどのようにその毒性を引き起こすのかを調べる一環として、サトラトキシンによるアポトーシス誘導機構を調べた。サトラトキシンは他のトリコテセンと同様に穀物の汚染を通じて動物や人間に毒性を示すことが知られているが、最近、sick building syndromesの原因の一つではないかといわれており、環境問題の観点からも注目されている。T-2トキシンによるアポトーシス誘導機序を調べた過程で、サトラトキシンがT-2よりもさらに強くヒト前骨髄性白血病細胞であるHL-60細胞にアポトーシスを誘導することが明らかとなった。そこで、T-2トキシンとサトラトキシンとの作用機序の差がどこにあるのかを調べた。その結果、サトラトキシンによるアポトーシスはミトコンドリア経路でカスパーゼ9が活性化されてカスパーゼ3の活性化に至る経路で引き起こされることはT-2トキシンと同様であったが、この経路の他にカスパーゼ8が活性化されbcl-2ファミリーであるbidが切断される経路が見いだされた。このデータはT-2トキシンは主としてミトコンドリア経路のカスパーゼ9の活性化のみでカスパーゼ3が活性化されるのに対し、サトラトキシンはカスパーゼ8とカスパーゼ9の両方でカスパーゼ3を活性化していることを示している。これがT-2トキシンとサトラトキシンのアポトーシス誘導活性の違いであると考えられた。なお、この研究成果は学術論文として投稿中である。 現在、in vivoではT-2トキシンやサトラトキシンがどのような機序でアポトーシスを引き起こしているかを調べているところである。
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