研究概要 |
枯草菌はイノシトールを炭素源として利用するための特殊な分解系を持つ。その分解系遺伝子はiol operonを構成しており、イノシトールの存在下で誘導される。筆者は枯草菌イノシトール分解系の分子生物学的解明を目指した。iolGが分解系の初発反応を担うinositol dehydrogenaseを、iolRが転写制御を担うrepressorをコードすることは既知であり、イノシトールの分解過程で生成する誘導物質がIolRをオペレーターから解離させるものと想定される。そこでまず誘導物質生成までの過程とそれ以降に関わる遺伝子を区別する実験系を確立した結果、誘導物質生成に不可欠なのはiolBCDEGの5遺伝子であることがわかった。そしてこれらの各遺伝子を大腸菌内で発現させ産物が示す酵素活性を検討し、iolEが2段階目の反応を担うinosose dehydrataseを、iolDが3段階目のdiketodeoxyinositol hydrolaseをコードすることを明らかにした。本年度はこの第3段階目の反応産物deoxyketohexonate(DKH)を精製することに成功し、その化学構造を詳細にする研究に着手することができ今後の結果が期待される。残るiolBCが関与する反応により誘導物質が生成されるものと考えらたので、これら2つの遺伝子をそれぞれ、また同時に発現させて酵素活性を調べたところ、これらの遺伝子産物は同時発現したときにのみ,複合体を形成し第4段階のDKH kinaseとしての酵素活性を発揮することがわかった。さらにこの反応産物(おそらくDKHP)はIolRとオペレーターDNAとの特異的な結合を阻害することを見出し、DKHPが細胞内の誘導物質として機能することを明らかにした。以上、本研究を通じ枯草菌のイノシトール分解系の細胞内誘導物質の生成までの反応系を分子生物学的に詳細に解明することに成功した。
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