研究最終年度は、コレステロール過酸化物を作成かつ精製し、マクロファージあるいは動脈内皮細胞のエイコサノイド産生に与える作用を検討した。まず、マクロファージを細胞毒性がLD50以下でコレステロール過酸化物を添加した培養液で培養した結果、同じレベルのコレステロールに曝露した場合と比べると、アラキドン酸放出ならびにプロスタグランジンE2産生と放出量が高まることが明らかとなった。また、この原因として、COX-1の活性が高まること、その原因は酵素レベルが高まることも確認できた。すなわち、コレステロール過酸化物が生体内に存在すると、一方、動脈内皮細胞を同様にコレステロール過酸化物に曝露した結果、マクロファージと同様にコレステロール曝露では認められなかった。アラキドン酸放出の上昇とプロスタサイクリン産生濃度がまった。その原因には、細胞のホスホリパーゼA2とCOX-1の活性の上昇が主な原因であることを突き止めた。このように、生体内の過酸化コレステロールレベルが高まると、種々の炎症やエイコサノイドレベルのインバランスによる代謝障害の引き金になる可能性が考えられた。過酸化ステロールの有害作用をin vivoで確認するために、実験動物(ラット)にCCl4を投与し、組織の過酸化コレステロール濃度とエイコサノイドレベルを調べた。その結果、CCl4投与により、対照である無CCl4投与群と比較して、著しく組織過酸化コレステロール濃度は上昇した。さらに、動脈プロスタサイクリン産生濃度と腎臓のプロスタグランジンE2濃度も上昇した。このように、間接的ではあるが、in vitroでのコレステロール過酸化物による代謝撹乱が確認された。これらの結果を総括すると、食事由来を含めて、生体内に高濃度の過酸化コレステロールが存在すると、脂肪酸ならびにエイコサノイド代謝を撹乱し、動脈硬化を含む種々の疾病発症に至る可能性が予想された。この原因は、代謝を担う種々の酵素活性に変動を与えることが主要な原因であることもわかった。
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