研究概要 |
腸管上皮における物質透過は、細胞内経路と細胞間隙経路の2つで制御されている。細胞間隙を透過する物質に対しては、細胞間接着装置タイトジャンクション(TJ)によって選択性が生じ、水やイオンなども容易には透過できないと考えられている。このような腸管上皮の物質透過制御機構は、生体に必須な成分の吸収調節だけでなく、異物の無秩序な侵入を防御するバリア機能にも重要な役割を果たしている。TJ依存的な細胞間隙の透過性の指標として、細胞層の管腔側と基底膜側の間の電気抵抗(transepithelial electrical resistance、TEER)がよく用いられる。本研究は、腸管上皮細胞層のTEERを低下させ、細胞間隙経路の物質透過促進因子としてエノキタケより見いだしたタンパク質(TEER-deceasing protein,TDP)の作用機構解明を目的として計画した。 本年度は、まず大腸菌によるTDP組み換え体生産系の確立を行った。PET21bベクターにTDPcDNAを挿入して発現ベクターを構築した。発現させた組み換え体は、ヒト腸管上皮細胞Caco-2細胞層のTEERを低下させ、細胞間物質透過を促進する活性を有していた。本研究で確立した組み換え体生産系は、TDPの構造-機能相関をしらべる上で有用であると考えられる。 また、作用機構解明の一端として、浸透圧負荷試験を行った。Caco-2細胞層の培養液中にラフィノースを添加することによって浸透圧を負荷したところ、TDPのTEER低下作用が抑制された。このことから、TDPは何らかの機構で腸管細胞内にイオンを透過させ、浸透圧バランスを撹乱することによってTJ装置の機能を修飾し、物質透過を促進するものと考えられた。
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