蛋白質、脂肪酸などの食品成分の摂取によって小腸から血中にコレシストキニン(CCK)が放出され膵臓から消化酵素が分泌される。申請者らは、蛋白質摂取によるCCK放出のメディエーターとしてアミノ酸残基61個のペプチド「モニターペプチド(MP)」を発見した。さらにコラゲナーゼで分散させたラット小腸粘膜細胞の表面にはMPと特異的に結合する蛋白質があることがわかり、これはCCK放出に関わるMP受容体ではないかと考えた。本研究はMP受容体の構造を明らかにするとともに、MPと受容体の結合によりCCKの放出が促進される機構について明らかにすることを目的とする。 MP受容体のいくつかの生化学的性質を考慮してそれをコードすると思われるcDNAをクローン化した(CL7)。CL7の産物が受容体本体であるかを確認する目的で、そのリコンビナント蛋白質を作成しヨードラベル化したMPとの結合実験を行ったが特異的結合はみられなかった。CL7産物(のちにMT-SP1と同一物質であることが判明)はMP受容体の本体ではなかったが小腸上皮細胞の代謝に重要な役割をもつプロテアーゼであることを明らかにした。申請者はこれらの実験と並行してモニターペプチド受容体の精製にも取り組みアミノ末端配列を決定することに成功した。この配列を基にcDNAを取得したところMP受容体の本体はグランザイムAであることがわかった。グランザイムAは小腸では絨毛基底膜付近のCD4+CD8+T細胞から分泌されるプロテアーゼであるが電荷依存的に細胞表面に結合しているという報告もなされている。モニターペプチド受容体の本体が免疫系細胞由来のプロテアーゼであったのは予想外であった。
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