鶏卵の貯蔵中に、卵白の食品機能特性が低下する原因の一つに、主成分であるovalbuminが熱安定性の高い分子種、S-ovalbuminに変化することが上げられている。本研究では、タンパク質全般の熱安定化原理の究明に資することを目指し、ovalbuminの熱安定化機構の解明を目的とした。 (1)有精卵の胚発生時における熱安定化現象の検討 有精卵の胚発生に伴い、卵白中のovalbuminが胚に移動することが報告され、ovalbuminが熱安定化していることが示唆されていたが、有精卵の胚発生過程初期の卵白からovalbuminを単離したところ、S-ovalbuminに変化していることが明らかとなり、卵白のpH変化をシミュレートした実験から、有精卵におけるS-ovalbuminの生成は、卵白中のpH変化により制御されることを見出した。この成果については、Biosci.Biotechnol.Biochem.誌に投稿した。 (2)serpinタンパク質のループインサーションにおいてヒンジとなる部位への変異導入 ovalbuminはserine proteinase inhibitor(serpin)と一次構造上の類似性が高く、高次構造も類似していることが知られている。serpinタンパク質は、その阻害活性発現時に、偽基質部位近傍のループが分子中央に位置するβシートAの中央に割り込み、著しい熱安定化を起こす特徴がある。この点に着目し、ループの割り込みに際して、ヒンジとなる領域に変異を導入した変異体を利用して、タンパク質工学的検討を進めることにした。先ず、分光学的性質を左右するトリプトファン残基について、分子内に3カ所存在するうち、ループの割り込みに関与する可能性のある2カ所について、それぞれフェニルアラニンに置換した変異体を作成し、大腸菌により発現させることに成功した。
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