2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)は最近発見された機能性脂質分子の一つであり、カンナビノイドレセプターに対する内因性のリガンドである。2-AGは記憶や免疫作用に関わる可能性が示唆されているが、その生理的意義は未だ明確ではない。ジアシルグリセロール(DG)リパーゼは生体内における2-AG産生酵素の有力な候補である。そこで、カビのDGリパーゼとホモロジーを有するヒト胎児脳由来のESTクローンを基に、5'-RACE法によってヒト脳由来cDNAライブラリーより完全長cDNAを得た。推定されるアミノ酸配列を解析したところ、本クローンはリパーゼの活性中心コンセンサス配列を有する672アミノ酸からなるタンパク質をコードし、N末端側に4つの膜貫通ドメインを有している膜結合型タンパク質であることが示唆された。この遺伝子は脳や肝臓、胎盤、免疫細胞などの多くの組織で発現していた。実際に、本遺伝子をCOS1細胞に発現させたところ、本タンパク質は膜画分に発現した。そのホモジネートを用いてDGリパーゼ活性を測定したところ、コントロールに比べて約2〜4倍の活性上昇が認められ、この活性はDGリパーゼの特異的な阻害剤によって完全に阻害された。以上より、ヒト膜結合型DGリパーゼのクローニングに成功したと考えられる。本酵素の有する特徴的な複数膜貫通ドメインの機能は不明だが、我々は同じく中性脂質代謝に関わる酵素であるコレステロール生合成律速酵素HMG-CoAレダクターゼもまた複数膜貫通ドメインを有し、このドメインがステロールなどの脂質を感知し、その結果、タンパク質の安定性に影響を与え、クオリティーチェックに関わるプロテアーゼによる分解が促進されることも見いだした。DGリパーゼに関しても類似の調節機構が存在する可能性がある。このような調節機構に関しては本酵素の生理的意義とともに今後の課題である。
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