これまでの研究で、ニワトリ卵白由来のリゾチームがヒト型ハイブリドーマや末梢血リンパ球の抗体生産性を促進することを示してきた。一連の研究の中で、リゾチームを熱処理するとその抗体産生促進活性の亢進が明らかとなった。そこで、リゾチームの熱変性による抗体産生促進活性の増強メカニズムの解明を本研究の目的とした。 ミクロコッカス菌の溶菌活性を指標としたリゾチームの酵素活性は、100℃、30分間の加熱により完全に失活したものの、ヒト型ハイブリドーマのモノクローナル抗体の産生を促進する活性、すなわち抗体産生促進活性は保持されていた。そこで、加熱処理による本酵素の抗体産生促進活性の変化を詳細に検討したところ、83℃の熱処理で未変性状態のリゾチームの抗体産生促進活性と比較して、その効果が15倍増強されることが明らかとなった。また、熱処理時間については10分間の加熱が最も活性増強に効果的であった。熱処理によってリゾチームの不溶化が起こるため、4M尿素の存在下で熱処理を行ったところ、未変性リゾチームに比べて約9倍の産生促進効果を示した。一方、尿素存在下で熱処理を行わなかった場合、リゾチームの抗体産生促進活性は完全に消失した。したがって、尿素存在下においては、尿素の共存によっていったん抗体産生促進活性の失活が起こり、その後の熱処理によって活性の賦活化が起こるものと考えられる。 今後、熱変性によるリゾチームのどのような構造変化が抗体産生促進活性の発現に関与しているのかを検討する予定である。
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