オノエヤナギ、ヤマナラシ、シラカンバ、イタヤカエデ、ヤチダモの成木樹幹胸高部の辺材外層より木片を採取し、(1)道管相互壁孔、(2)木部繊維間壁孔の壁孔壁の微細構造について、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)観察と画像解析により調べた。これらの5樹種は、水分通導の研究にこれまで使用してきた、あるいはこれから使用する予定の広葉樹である。(1)道管相互壁孔:ヤチダモの壁孔壁は、他の4種とくらべて著しく厚壁で、複数の薄層から構成されていた。ミクロフィブリル(MF)は壁孔壁の全面にわたって密に詰まり、FE-SEMレベルでは貫通するMF間隙や小孔はみとめられなかった。これに対して、他の4樹種の壁孔壁は薄壁で、はっきりとした層構造をもたなかった。開口幅が数百nmまでのMF間隙が存在し、そのうちの比較的大きなMF間隙は明らかに壁孔壁を貫通していた。画像解析によりそれらMF間隙の円相当径を計測したところ、最大値は約500nm(イタヤカエデ)であった。(2)木部繊維間壁孔:5樹種ともに、中央が大きく欠落している壁孔壁がみとめられた。なかにはリムだけを残して、壁孔壁がほぼ完全に欠落している壁孔対も散見された。以上の結果は、供試した5樹種における水分通導や流動浸透のメカニズムを検討するうえで、不可欠の知見である。また、とりわけ木部繊維間壁孔の結果は壁孔およびせん孔の概念の見直しを迫るものであり、木材組織学的に極めて興味深い。
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