前年度に引き続いて広葉樹材の壁孔の微細構造について走査電子顕微鏡で解明を進めるとともに、広葉樹生立木における通水経路を細胞レベルで明らかにするための染料注入〜検鏡の手順について検討をおこなった。本年度の研究により得られた成果の概略は、それぞれ以下のとおりである。 1.前年度には同種の細胞どうし(道管相互および木部繊維相互)の壁孔対を対象にしたが、今年度は異種の細胞間(道管・木部繊維間)の壁孔対について検討することにした。ところが、供試した5樹種ではいずれも道管・木部繊維間の共通壁には壁孔対が存在しないこと、そのうち少なくとも3種では盲壁孔が存在することが新たに明らかになった。盲壁孔が存在する細胞は樹種ごとに決まっており、シラカンバでは道管側、オノエヤナギとヤマナラシでは木部繊維側であった。 2.代表的な塩基性染料および酸性染料を使って染料注入をおこない、それぞれについて様々な光顕標本の作製〜観察手順を適用し、比較をおこなった。第一に、通水の範囲をより高い精度で調べるのには、細胞壁成分に結合・吸着しない染料を使用すべきことが示された。第二に、通水に関わっている細胞を明らかにするのには、立木のときの局在状態に染料を固定し、その固定した状態を損なわないようにその後一連の標本作製〜検鏡を行う必要があることを確認した。
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