ヒラタケPleurotus ostreatusにおいて、キノコ本来のものとは異なる香気物質p-anisaldehydeの生産を認めた。さらに経時的サンプルについて分析した結果、新たに芳香族塩素化合物3-chloro-4-methoxybenzaldehydeが生合成されていることを発見した。P.ostreatusではこの種の化合物の生産報告例はない。リグニン分解能を有する白色腐朽菌が何故このような塩素化合物を生産するのか、またどのような経路で生合成するのかは未だ明らかになっておらず、キノコのリグニン分解機構を把握する上でも非常に興味深い現象と捉えている。本研究では、食用キノコを媒体とした林産未利用資源の有効な変換システムの開発を最終目的とし、芳香族塩素化合物の生合成・代謝機構の解明を行うものとする。 これまでに、ヒラタケ由来の香気物質の生合成に関わっていると推定される酵素系について、リグニン分解酵素を中心に検討を行ったところ、p-anisaldehydeの生産と並行してaryl-alcohol oxidaseの活性上昇を確認した。また、Mn-peroxidaseにおいても同様の現象が認められた。これは、aryl-alcohol oxidaseによって生産されたH_2O_2が、Mn-peroxidaseへの供給系としての役割を担っているのではないかと推測している。一方、3-chloro-4-methoxybenzaldehydeにおいては、このような傾向は認められなかった。次に、Clを添加した培養を行ったが、3-chloro-4-methoxybenzaldehydeの生産には特に影響しなかった。現在、芳香族塩素化合物の起源ならびにchloroperoxidaseなど塩素付加に関わる酵素系について引き続き検討を進めている。
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