本研究では、食用キノコを媒体とした林産未利用資源の生物変換システムの開発を目標とし、白色腐朽菌ヒラタケPleurotus ostreatusにおける香気物質p-anisaldehydeの生産ならびに生合成系に関する検討を行った。振盪と静置培養におけるp-anisaldehudeの生産性を比較したところ、振盪では香気の生産はほとんど認められず、静置培養の方が優れていた。続いて、培地成分を変化(基本培地、+Tyrosine、+Phenylalanine、+Tryptophan、-酵母エキス)させた静置培養を行い、香気ならびにリグニン分解系酵素への影響を調べた。その結果、酵母エキスを除いた区分では香気の生産がほとんど認められなかったのに対し、Tyrosineを添加した区分で最も高くなった。よって、Tyrosineがp-anisaldehydeの起源である可能性が強く示唆された。担子菌由来のp-anisaldehydeは、同じ白色腐朽菌Bjerkandera sp.で報告されており、この菌の場合、通常の培地では生産されないが、Phenylalanineを添加してはじめて生産がみられると記されている。したがって、P.ostreatusにおいては、上記とは異なる経路で生合成されていると予想される。また、Tyrosine添加区分では、p-anisaldehydeと同じ上昇割合でaryl-alcohol oxidaseおよびMn-perokidase活性の増加が確認され、両酵素の密接な関わりがより明らかとなった。P.ostreatusにおける香気物質p-anisaldehydeの生産は、H_2O_2供給源としてリグニン分解系の重要な一端を担っているのではないかと推測している。
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