研究概要 |
陸域からの結合型窒素の流入は海域の富栄養化を促し,環境悪化の原因となる。海域では,結合型窒素は脱窒細菌主よって分子状窒素に変換され,大気中に除去される。しかし,海洋の脱窒細菌,とりわけ海水中のそれに関する研究はほとんど存在しない。本研究では,培養法により海水中の脱窒細菌を計数し,脱窒細菌優占株を分離してその脱窒活性の特性や脱窒に関わる遺伝子群(脱窒遺伝子)を解析する。同時に海水から直接抽出した細菌DNAから脱窒関与遺伝子ファミリーを検索し,分離菌株のそれを比較する。将来これらの知見を基に,これまで未知であった海域での脱窒過程を推測する。 本年度は,富栄養しつつある西日本沿岸域において,脱窒細菌および脱窒遺伝子を解析し,以下の結果を得た。 (1)培養法により播磨灘,大阪湾および伊勢湾の定点の,底層および表層海水中の脱窒細菌を計数したところ,酸素が豊富な表層海水の方が,低酸素の底層海水より多数の脱窒細菌が存在した。その時,全従属栄養細菌に対する脱窒細菌の割合は,これまで海洋底泥中で得られているその値よりはるかに高く,1%に達した。これまで,脱窒は酸素濃度が低い環境で行われると考えられていただけに,この事は予想外であった。 (2)表層および底層海水から回収した細菌DNAに対して,分子状窒素の生成に関与するN_2Oレダクターゼ遺伝子のPCR増幅を試み,クローニング後,複数のクローンの塩基配列を決定した。その結果,既知の脱窒細菌分離株(陸棲,淡水棲を含む)の同遺伝子や,海洋底泥由来の同遺伝子とは系統的に異なる,海水由来と思われる一群の遺伝子が優占的に得られた。この事から海水中にはこれまで報告されていない未知の脱窒細菌および脱窒遺伝子が多量に存在していることが示された。 以上の知見から,これまで見過ごされてきた比較的酸素が豊富な表層海水中にも,未知の脱窒細菌が多量に存在していることが強く示唆された。
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