大船渡湾の定点に垂下したホタテガイの中腸腺をアルデヒドで固定し、エタノール脱水、アクリル樹脂包埋後薄切切片を作製し、佐藤らが開発したサキシトキシン(STX)に対するウサギ抗体を反応させ、抗ウサギIgGヤギ抗体-金コロイド、銀増感をへて、PSPを可視化した。その結果、有毒渦鞭毛藻Alexandrium tamarenseで毒化した2000年6月12日と2001年6月11日の試料において、中腸腺毛嚢の酵素細胞と栄養細胞の間の結合組織および栄養細胞を囲む膜組織に抗STX抗体との強い発色が認められた。これらの組織において反応は膜系にのみ認められ、細胞質の染色はされなかった。毛嚢内腔や毛嚢壁上皮細胞には反応は見られなかった。透過型電子顕微鏡による免疫染色結果では、中腸腺結合組織内や細管内に存在する白血球様細胞の細胞質に発色が認められた。 緒方らは有毒渦鞭毛藻の発生が殆ど認められない陸奥湾から採取したムラサキイガイや琵琶湖産のシジミに来源が特定できない微量のPSPが存在することを報告している。同様の現象は香港海域でも観察されている。そこで、2001年3月6日に山田湾で採集した無毒ホタテガイを同様に観察したところ、発色程度は若干弱いものの、結合組織および栄養細胞を囲む膜組織が同様に染色された。この結果は、微量のPSPがタンパクに結合した状態で、時期、場所を問わず貝類に存在し、同タンパクからの遊離を含めた毒の代謝が貝の毒化を考える上での新たなファクターになることを示唆する。そこで市販のホタテガイ、ムラサキイガイ、カキ、ホヤの無毒検体を入手し、これらから摘出した中腸腺抽出物を30℃でインキュベートし、経時的に毒を抽出してHPLCで測定したところ、PSP毒量が増加する現象が観察された。この結果は上記の考え方を支持する。
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