1.前年度に引き続き、1866年農業アンケートを素材に、民法典の相続分の具体的形成に関する規定をめぐる軋轢・鬩ぎ合いを分析し、法制度改正における農民の役割を明らかにした。 2.同じく、1866年農業アンケートを利用して、19世紀中葉フランスにおける相続制度の分布と農業生産の特質との関連について明らかにした。 3.南フランスのアジャン(ロット・エ・ガロンヌ県)およびニーム(ガール県)に赴き、現地の手稿史料を収集・分析した。そこでは、一括承継相続が確かに存在するが、一方で、現物均分相続も行われており、当地の相続慣行が動揺にさらされていることが明らかとなった。従来、南フランスの相続制度については、放牧による畜産が優勢な山岳地が中心に分析の対象とされ、そこに見られる一括承継相続の強固な残存が強調され、民法典相続法の影響はないものとされてきた。しかしながら、実際には、地中海沿岸やガロンヌ河流域といった、穀作・ブドウ・工芸作物などが栽培されている地域では、現物均分相続が一定程度浸透しており、そうしたところでは民法典の影響は疑いえないものであることが明らかとなった。こうした影響を緩和するために、農民は相続戦略を駆使しながら、1.で分析したように、法制度そのものの改正をも志向したのであった。 4.また、相続制度の影響を見る上で重要となる、当時の農民の労働・生活・ライフサイクルについて分析を行い、通説のように彼らが窮乏化しているとは、必ずしもいえないことを明らかにした。
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