種々のストレスによる生殖機能の抑制は家畜の生産性低下の主要な要因であり、その作用メカニズムの解明が待たれる。本研究はニホンザルをモデル動物として用い、低栄養ストレスによるパルス状黄体形成ホルモン(LH)分泌抑制機序の解明を目的として以下の実験を行った。 1.低栄養ストレスとして、血糖利用阻害剤(2-deoxyglucose;2DG)または脂肪酸β酸化阻害剤(2-mercaptoacetate;MA)の急性静脈投与を行い、パルス状LH分泌に及ぼす影響を検討した。パルス状LH分泌は2DG投与群(300mg/kg)においてエストラジオール(E_2)非依存性に抑制されたことから、ニホンザルでは、特異的な血糖センサーに感受された血糖利用性の低下によりE_2非依存性にLHパルスが抑制されることが示唆された。一方、MA(92mg/kg)の投与により、平均LH濃度およびパルス状LH分泌のベースライン濃度が有意に減少し、脂肪酸代謝阻害による遊離脂肪酸利用性の低下によりLH分泌が徐々に抑制された。以上より、生体エネルギー基質である血糖および遊離脂肪酸の利用性低下が低栄養ストレスを中枢に伝達するシグナルとなる可能性が示唆された。これらの知見は関連学会で発表し、現在投稿準備中である。 2.低栄養条件下におけるLHパルス抑制の脳内機序を明らかにすることを目的とし、2DGの急性静脈投与がニホンザル視床下部における多ニューロン発射活動(MUA)に及ぼす影響を調べた。その結果、2DG投与によりMUAの規則的な一過性上昇(MUAボレー)が抑制されることが確認された。 3.血糖利用性の変化を感受するセンシング機構の局在を調べるため、灌流固定して採取したニホンザルの脳および各種末梢臓器における膵臓型グルコキナーゼおよびグルコース担体(GLUT2)の免疫組織化学的検出法の諸条件を検討した。
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