ラットの雌性行動であるロードーシスはエストロゲンが脳に作用することにより発現可能となる。雌雄の中隔外側核には抑制機構が存在し、エストロゲンの作用の性差によって抑制力形成の性差が生じている。平成12年度研究では、雄ラットにおいて中隔外側核-中脳中心灰白質間の神経投射がロードーシス抑制に重要であることを証明した。本年度研究では、以下の知見を得た。 1.雌雄ラットの中心灰白質へ逆行性トレーサーを注入し、中隔外側核におけるトレーサー標識神経細胞数の測定を行った。その結果、雌雄の中隔外側核の中間部に多数の標識神経細胞が観察された。さらに、雌の中隔外側核の標識神経細胞数は雄よりも多いことが明らかになった。 2.性腺除去雌雄ラットとエストロゲン処置を施した性腺除去雌雄ラットの中隔外側核のエストロゲン受容体アルファおよびベータの発現を免疫組織化学的手法により解析した。その結果、中隔外側核のエストロゲン受容体アルファ含有細胞は少数であったが、エストロゲン受容体ベータ含有細胞は多数存在した。しかし、これらの分布と数には性差は無く、エストロゲンによる影響も認められなかった。 3.中心灰白質へ逆行性トレーサーを注入された雌雄ラットの中隔外側核のトレーサーとエストロゲン受容体ベータの免疫二重染色の結果から、トレーサー標識神経細胞の総数およびエストロゲン受容体ベータ含有トレーサー標識神経細胞数は雄よりも雌において多かった。しかし、総数に対するエストロゲン受容体ベータ含有トレーサー標識細胞数の割合は雌雄ともに20%以下であり性差は無かった。 以上の結果から、ロードーシス抑制に関与する中隔外側核-中脳中心灰白質間の神経投射を構成する細胞数の性差はロードーシス発現の性差を形成する要因の一つであることが示された。中隔外側核のエストロゲン受容体の発現量は行動発現の性差を反映していないと考えられた。
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