本研究の目的は牛疫ウイルス(RPV)のウサギ馴化株であるRPV-L株の膜蛋白Hの病原性発現への関与の有無と細胞親和性に必要な部位を検索することである。RPVの実際の宿主であるウシを用いた感染実験は世界的にも数少ない特殊施設でしか行うことができないが、RPV-L株はウサギでの感染実験系において牛疫の病態を忠実に再現する優れたウイルス株である。昨年度にウシでのワクチン株でウサギに対して病原性を示さないRPV-RBOK株のH遺伝子をL株と入れ換えた組換えRPV-RBOK(Lap-H)の作製に成功した。この組換えウイルスとRBOK、L株との3種のウイルスを用いてウサギの感染実験を行った。L株感染ウサギが激しい臨床症状(体重減少、体温上昇、白血球減少)を示したのに対し、RBOK株と1apH株感染ウサギでは臨床症状は全く見られなかった。病理組織学的には、L株感染ウサギの盲腸、リンパ節では重度の炎症性変化を認めたが、RBOK株感染ウサギでは病変は見られなかった。LapH株感染ウサギでは、リンパ節に僅かながら反応性変化を認めた。またウイルス接種3週間後の血清中の抗体価をELISA法により測定したところ、RBOK株接種ウサギでは有為な抗体価の上昇は認められなかったが、L株接種ウサギおよび1apH株接種ウサギにおいては有為な抗体価の上昇が認められた。またin vitroでのウイルス増殖を調べてみると1apH株はRBOK株とL株の中間型であることがわかった。以上の結果から、H蛋白が宿主細胞への侵入に重要であり、これをウサギ馴化株に変えたことによって種を越えてウサギの細胞内への侵入は成立したと考えられるが、その後の増殖能を規定するのは他のウイルス蛋白の影響が大きく、宿主内各臓器でのウイルス増殖が十分でないために種を越えた病原性発現に至らなかったと考えられた。
|