研究概要 |
高親和性ナトリウム依存性グルタミン酸輸送体は哺乳動物の中枢神経系に多量に発現する膜蛋白質であり,興奮性神経伝達物質グルタミン酸の神経毒性から神経細胞を保護する役割を果たしている.一方,犬の赤血球には,他の哺乳動物と異なり,本輸送体の発現が認められ,抗酸化物質グルタチオンの合成基質としてのグルタミン酸の取り込みに寄与することが知られている.しかし,日本犬の一部には遺伝的に本輸送体の発現を欠く赤血球を有する犬が存在する.これまでの研究からは,本輸送体の欠損にはGLAST型グルタミン酸輸送体遺伝子における点突然変異(G492S)と転写活性の低下の両者が関与することが明らかになっているものの,その分子機序は明らかでない.そこで,本研究では遺伝性GLAST欠損症の分子基盤を明らかにするために,突然変異を有するGLAST遺伝子を赤芽球継細胞およびアフリカツメガエル卵母細胞に発現させ,その活性および蛋白質発現の比較を行った. 正常および変異GLAST遺伝子について,哺乳動物細胞発現クローンを構築後,赤芽球継細胞株K562に一過性transfectionを行い,その輸送活性を調べたところ,両者に差異は見られなかった.また,アフリカツメガエル卵母細胞発現系においても,大きな差異は認められず,一過性の発現に関わる短期間の発現機序に大きな差異が認められないことが確認された.しかし,シクロヘキシミドを添加することにより,新規蛋白質の合成を抑制すると,G492S変異体でのみ早期の活性低下が観察された.これは,G492S変異によりGLAST蛋白質が不安定になることを示唆しており,何らかの蛋白質分解機構が作用することによりGLAST欠損が誘発されるものと考えられた.現在,恒常的発現細胞を樹立し,その分解機序をさらに検討している.
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