前年度に研究者は線虫(C. elegans)卵巣内の生殖細胞(GC)数を指標とした内分泌撹乱化学物質(ED)の新規影響評価法を確立した。本年度は、EDの中でもその作用機序に関する情報が少ない塩化トリブチルスズ(TB)について、曝露時のGC数の減少とアポトーシスの関係およびRNA arbitary primed (RAP) PCR法による変動遺伝子の同定を試みた。 最初に、TB曝露によるGC減少に対するアポトーシスの関与を検討する目的で以下の実験を行った。TBを10^<-10>-10^<-6>Mを含むコレステロール無添加NGM寒天培地に定法により単離した卵を載せ20℃で4日間培養を行った。GCのアポトーシス陽性細胞の検出は、蛍光色素SYT012で染色後、蛍光顕微鏡下で観察することで行った。線虫のアポトーシス関連遺伝子(ced-3)の発現量の比較は、半定量的RT-PCRにより行った。非曝露群と比較して、いずれの濃度のTB曝露群においても、GCのアポトーシス陽性細胞数およびced-3の発現量には、差が認められなかった。このことから、TB暴露によるGC数の減少には、アポトーシスが関与していない事が明らかになった。RAP PCR法については、液体培地により大量培養した線虫(卵〜成虫)を2群に分け、終濃度10^<-6>MのTBを含むバッファーとTB無添加バッファーでさらに24時間培養後、mRNAを調製することによって行った。その結果、TB曝露群と非曝露群の間で、hsp70(ヒートショックプロテイン遺伝子の一種)およびvit-2(ビテロジェニン遺伝子の一種)の発現量に有意な差を認めた。 RAPPCR法については、今後もTB曝露により変動する遺伝子の同定を行っていく。 本研究により、線虫を実験動物として用いるEDの影響評価法が有効であることが明らかになった。
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