研究課題
植物は哺乳動物とは異なり、自らの体温を調節することなく、外界の気温と共にその体温が変動するものと考えられてきた。ところが驚くべきことに、ある種の植物には、自ら発熱し、体温を調節するものが存在する。本研究においては早春に花を咲かせる発熱植物である「ザゼンソウ」に着目し、本植物の熱産生に関わるシステムを明らかにするための研究を行った。はじめに群落地および人工気象室におけるザゼンソウの発熱変動データーを収集し、肉穂花序の恒温維持に関わる特性を検討した。その結果、ザゼンソウの肉穂花序は約60分を1周期とする体温振動を示すことが明らかになった。興味深いことにこの体温振動は、外気温の変動を原因とする体温の変化により引き起こされ、しかも、この体温振動が誘導されるための体温変化の閾値は0.3℃であると見積もられた。植物界でこのような微少温度変化を認識し、恒温性を維持できる生体応答システムはザゼンソウ以外には報告がない。この研究成果は、2001年夏に米国で開催されたアメリカ植物生理学会年次総会で招待講演を行った。次に、このザゼンソウに特徴的な体温振動過程における発熱関連遺伝子のmRNA発現量について検討した。発熱関連遺伝子としては、哺乳動物で非ふるえ熱産生の原因遺伝子であることが明らかになっている脱共役タンパク質(uncoupling Protein : ucp)のザゼンソウホモログ、および、植物の発熱原因遺伝子であるとされているシアン耐性呼吸酵素(alternative oxidase : aox)遺伝子をターゲットとした。特にaox遺伝子は従来ザゼンソウ肉穂花序より単離されておらず、本研究においてその単離を行った。ノーザン解析により、肉穂花序の体温振動過程におけるucpおよびaox遺伝子の発現を調べたところ、それぞれのmRNAの蓄積量には大きな変動がなく、体温の変動は発熱関連遺伝子の転写レベルでは調節されていないことが推察された。
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