本研究の目的は、炎症による白血球の血管外遊走のメカニズムを形態学的手法を用いてダイナミックに解析することである。そのために局所的に走化因子を投与し、細静脈内における白血球の遊出過程を生体顕微鏡と電子顕微鏡を用いて解析を行った。まずラットを開腹後、腸間膜を取り出し37℃に保持したタイロード液に浸し、細静脈の血流を生体顕微鏡で観察し録画した。コントロール群では、血流中の白血球は内皮に強く付着することはほとんどなかった。しかし白血球走化因子のひとつであるN-formyl-Methionyl-Leucyl-Phenylalanine(fMLP)を投与すると、5分後には随所で白血球のローリング現象がみられ、その後一部は内皮に固着し血管壁にとどまり続ける像をみとめた。白血球が血管壁から離れて周囲の組織に迷入する像は40分後以上を経過してから観察された。同様の部位を透過電子顕微鏡で観察したところ、粘着した好中球が突起を血管内皮細胞に差し込む像と共に、内皮を通過した好中球は一時内皮と基底膜との間にとどまる像が観察された。さらに、fMLP投与40分後には、あたかも好中球がその細胞質を狭小化させて基底膜の小さな穴を通過していくような場面がみられた。以上の結果から、刺激された好中球が血管内から血管外に遊走していく過程において、白血球が内皮とその基底膜の間に一時留まること、その際に内皮下の基底膜が一つのバリアーとしてはたらいていることが、明らかになった。
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