1.脂肪細胞の分化に伴うカベオリン-1遺伝子の発現誘導 脂肪細胞にはカベオラが非常に豊富に存在するが、脂肪細胞におけるカベオリン-1の発現調節機構は未だ解明されていない。私は乳癌由来の前脂肪細胞ST-13に対しいくつかの分化誘導因子の投与を行い、脂肪細胞への分化に伴うカベオリン-1の顕著な発現誘導を細胞培養系で再現することに成功した。特にカベオリン-1のαアイソフォームの誘導が顕著であり、その発現は転写レベルで調節されていた。これにより脂肪細胞分化に伴うカべオリン-1遺伝子の発現誘導を解析する上で非常に有用な細胞培養系を確立できた。 2.カベオリン-1遺伝子の各細胞種特異的シスエレメントの同定 細胞種に固有のカベオラ形成を調節するメカニズムを解明するため、カべオリン-1遺伝子の発現調節に関与する転写調節領域の同定を試みた。これまでに骨格筋細胞の分化に伴うカベオリン-1の発現抑制や、脂肪細胞の分化に伴う発現誘導に関わるシスエレメントを同定しつつある。ただし実験に使用したカべオリン-1遺伝子の上流の領域(約1.3kb)が実際の転写調節を再現するには不十分である可能性が否定できず、さらに上流(あるいは下流)の遺伝子配列の関与も検討する必要があることが問題点であると認識している。また血管内皮細胞、血管平滑筋細胞についても、培養細胞を入手しカベオリン-1の発現を確認しているが、発現調節領域の同定には至っていない。 当初の予定では、同定したシスエレメントに結合する転写因子を同定し、その制御下にある遺伝子群を網羅的に同定する計画であったが、未だ転写因子の同定には至っていない。骨格筋細胞における発現抑制に関わるシスエレメントは既知の転写因子の結合配列と一致していたが、実際にその因子が働くという証拠はまだ得ていない。
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