本年度は、免疫組織化学並びに電気泳動による生化学的手法を用いて、胎生18日から生後21日にかけてのラットの大脳皮質において血管網形成に関与すると考えられる分子の発現パターン並びにその局在を調べた。 血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)は、胎生18日には既に側脳室内の脈絡叢に強い発現が認められ、生後まで続くことが示された。この他、VEGF陽性反応は側脳室や第三脳室に面した神経上皮層、軟膜、脳底部の最表層にみられ、脳梁などの白質や灰白質でも陽性反応が点在した。大脳皮質において血管網の形成は皮質の層構造の分化と平行して生後間もなく始まり、生後2週目には本格的になることが知られているが、今回明らかにされたVEGFの発現パターン並びにその局在はこれらの部位で起こる血管網の形成との関連を示唆するものである。これに対し、VEGFの受容体であるFlt-1の陽性反応は、これらの発達段階でほとんど認められなかった。また、血管網形成におけるアストロサイトの関与について調べるため、GFAPの免疫組織化学的局在をVEGFと比較したところ、両者は一部を除いて一致しなかった。アストロサイトがVEGF合成に関与するという報告もあり、今後、この点も含めて電子顕微鏡を用いて細胞レベルで検討する必要がある。 一方、大脳皮質に発現して血管の伸長・誘導に関与すると考えられる細胞外基質分子であるラミニン・IV型コラーゲン・フィブロネクチンが、脈絡叢、軟膜表面並びに皮質内の血管腔の辺縁に強い陽性反応を示した。しかしこれらの発現パターンや局在が必ずしもVEGFと相関せず、他の血管新生関連分子との関連も考慮する必要がある。
|