2年目となる本年度は、昨年度に続き、免疫組織化学並びに免疫電顕による形態学学的手法を用いて、ラットの大脳皮質において血管伸長に関与すると考えられる分子群の局在の変化を発達段階を追って調べ、血管網形成期におけるそれら分子の役割について検討した。なお、昨年度の結果に基づき、対象とするラットの時期を大脳皮質形成の始まる胎生14日から生後21日までに拡大した。 血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)は、胎生14日に側脳室内の脈絡叢、神経上皮層、軟膜などに強い陽性反応が認められた。これは胎生後期以降で観察された昨年度の結果と同様であったが、生後は次第に陽性反応が減少した。このようなVEGFの発現パターン並びにその局在は、生後2週目を中心に本格的になる血管網の形成よりもはるかに早い時期から見られることから、血管内皮細胞の発達初期からVEGFが何らかの役割を果たすことが推測される。これに対し、VEGFの受容体であるFlt-1の陽性反応は弱いが、固定法や抗体濃度の変更など、さらなる改善を施しているところである。 一方、形成期の大脳皮質に発現することで知られる膜貫通型の糖蛋白であるneurophilin-1は胎生14日の大脳皮質でニューロンの軸索をはじめ脈絡叢、軟膜表面並びに皮質内の血管腔の辺縁などに広く分布した。neurophilin-1はVEGFの特定のアイソフォームに結合したり、VEGFとFlt-1の結合を強化することがin vitroの研究で報告されており、今回の結果からVEGFとneurophilin-1の局在が特異的には相関しないが、少なくともこの両者の相互作用が血管網の形成に何らかの役割を果たす可能性の一つと考えられる。
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