研究概要 |
IP_3受容体Caチャネルを介した小胞体(ER)からのCa遊離の過程を理解するためには、ER内外のCa濃度差だけでなく、電位差(=ER膜電位)をも考慮して電気化学的現象としてとらえることが重要である。本研究では、膜電位感受性蛍光色素を用いてハムスター卵細胞におけるIP_3依存性Ca遊離の際のER膜電位変化を光学的に測定する、というアプローチを行っている。ハムスター卵は、リアノジン受容体系は存在せずIP_3受容体系のみである、細胞内のERの分布が均一である、などモデル系としての利点がある。 本年度の研究において、以下のような成果が得られた。 (1)Stylyl系膜電位依存性蛍光色素di-18:2-ANEPPSは、大豆油に飽和させた状態で卵細胞質内に注入すると、徐々にER膜に移行した。さらに色素はER膜上を拡散し、約30分のうちに卵内のER全体が染色された。それに対して細胞膜は全く染色されなかった。この方法により、ER膜電位の蛍光シグナルを選択的に得ることができた。 (2)Stylyl系色素からの膜電位依存性シグナルを、2波長励起および2波長蛍光のレシオ記録によって測定する光学系を確立した。これによって、色素の退色や励起光強度の変動に由来するノイズ成分が排除され、S/Nが良く安定した光学的膜電位記録が可能になった。 (3)IP_3を細胞質内に注入してCa遊離を誘発し、その際の変化を測定したところ、ER内陰性の向きのER膜電位変化を示す蛍光レシオシグナルの変化が、2波長励起および2波長蛍光の両方のモードで記録された。 (4)細胞質中に4-AP,TPAなどのKチャネル阻害剤を投与しておくと、IP_3誘発性Ca遊離は抑制された。しかしその効果は弱いことから、ER膜上のKチャネルはCa遊離の際の電位勾配形成を軽減はするが、完全に相殺するだけの能力はもたないことが示唆された。
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