体温の上昇に伴う皮膚血流量の増加は、体中心部の血液量を減少させ、心房径を減少させる。一方、head-down tilt(HDT)は下肢部からの静脈還流量を増加させ、心房径を増加させると考えられる。したがって高体温時にHDTを行えば、心房径は正常体温時のレベルに回復されると推測される。この仮説を検証するために左房径に及ぼす高体温およびHDTの影響について検討した。健康な成人12名が、2つの実験で正常体温状態を40分間維持した後に、水還流スーツを用いた暑熱環境に80分間暴露された。実験1では高体温時に5°と10°の傾斜のHDTを行い、実験2では正常体温時および高体温時に15°と30°の傾斜のHDTを行った。左房径はエコーカルディオグラフィーによって、実験中10分毎に測定された。実験1において、暑熱負荷に伴い食道温(Tes)は36.54±0.06℃から37.22±0.08℃に上昇し、左房径は2.75±0.10cmから2.62±0.10cmに減少した。暑熱負荷中Tesと左房径の変化量 (Δ)との間には有意な負の相関関係が認められた(Δ左房径=-0.151×Tes+5.533、r=0.924)。左房径はいずれの温熱条件においてもHDTによって有意に増大し、tiltの傾斜角度のサイン値とΔ左房径の間に有意な正の相関関係が認められた(Δ左房径=0.612×傾斜角度のサイン値+0.065、r=0.967)。これらの結果から、本実験条件下では高体温時に5-10°の傾斜のHDTを行うことによって、左房径を正常体温時のレベルに維持できると推定された。
|