健康増進のためには、特に老化予防の観点から、適度な強度で運動することが推奨されている。この運動強度を決定するために、脈拍あるいはボルグのスケール(主観的な尺度)を使う方法がある。ただし、これらの方法は、高齢者には適用できない場合が多いことが報告されている。したがって、歩行速度に基づいて適度な運動強度を設定する新しい方法を開発するために、本年度は以下の実験を行った。 本研究では、65-74歳の健康な男性10名と女性13名を対象に、通常および最大歩行速度、最大酸素摂取量(VO_2max)、そして膝伸展力の相互関係と、最大歩行速度の30〜70%での運動はそれぞれ、酸素摂取予備能(VO_2reserve)あるいは心拍予備能(HRreserve)の何%に相当するのかを調べた。 その結果、男女の別を問わず、通常と最大歩行速度との間に有意な正の相関が認められ、前者は後者の53〜54%に相当した。また、最大(もしくは通常)歩行速度は、膝伸展力はもとよりVO_2maxとも有意な正の相関があった。これにより、各種最大下歩行速度と%VO_2reserveあるいは%HRreserveとの間にも、一定の範囲内で、直線的かつ規則的な関係が見られた。つまり、男性でも女性でも、最大歩行速度の40〜60%での運動はそれぞれ、VO_2reserveあるいはHRreserveの30〜50%に相当した。したがって、高齢者では、各自の最大歩行速度の60%前後(もしくは通常歩行速度の10〜15%程度増し)の速さで歩くのが適度な運動であるようだ。この歩行速度に基づく新しい運動強度設定法により、今後は、高齢者に対して簡便に、安全かつ効果的な運動を処方することができるようになると期待される。
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