我々はこれまで、抗うつ薬(イミプラミン、サートラリン)長期投与によりラット脳内で発現の変化する遺伝子およびEST(expressed sequence tags)を網羅的に探索する作業を続け、これまでに約200個の候補遺伝子を同定してきた。その中で、SRG#34フラグメントの部分塩基配列をもとに5'及び3'RACE(rapid amplification of cDNA ends)法により全塩基配列を決定し相同性検索を行ったところ、アルツハイマー病患者死後脳で発現が増加する遺伝子として発見されたkf-1と高相同性を示すことが明らかとなった。また、予測されるアミノ酸配列から、タンパクの折り畳みに関与していると考えられるZinc fingerファミリーであるRing fingerモチーフ(Ring-H2 fingerモチーフ)を有することが明らかとなった。RT-PCR法により発現の変化を再確認・定量したところ、コントロール群と比較し抗うつ薬長期投与群のラット海馬で約3倍、前頭葉皮質で約1.5倍の増加が確認された。しかし、単回投与、及び他の中枢神経系作動薬であるハロペリドールでは発現の増加が認められなかったことより、SRG#34の発現変化は、抗うつ薬の臨床効果に深く関与している可能性が示唆された。さらに、ラット各組織における発現をノザンブロッティング法により比較した結果、肝臓、腎臓に多く、脳、心臓にも発現しているが、脾臓、肺、骨格筋には非常に少ないか、あるいは発現が見られないことが明らかとなった。現在、作製した抗SRG#34抗体を用いて、タンパクレベルでの発現変化及び免疫組織化学的手法により分布等の検討を行っている。今後、本遺伝子がコードするタンパクの生体における生理機能を検討するために本遺伝子のアンチセンス・オリゴヌクレオチドを培養細胞に導入し、細胞の基本的機能である分化・増殖、細胞周期、生存について検討する計画である。さらに、遺伝子-タンパク相互作用を検討し、可能であればDNA-タンパク複合体の形成を検討するためのアッセイ系(ゲルシフト法、スーパーシフト法)を構築することを計画している。
|