研究概要 |
本年度は、イヌグラフトモデルの作製を行い、薬物を用いてキマーゼとグラフト血管におけるキマーゼの役割を明らかにした。モデルはイヌ頸静脈を頸動脈にバイパスグラフトすることにより作製し、グラフト作製後28日で顕著な内膜肥厚が形成されることを確認した。そして、それらの組織の抽出液中のキマーゼ活性は、処置を行っていない頸静脈に比して有意に活性が上昇しており、このモデルを用いて、米国AKOSLOGIC社のOleksystyn博士より提供していただいた特異的キマーゼ阻害薬、Suc-Val-Pro-Phep(OPh)_2を用いて有意にグラフト血管の内膜肥厚を抑制することを報告した(FEBS Lett.467:141-144,2000)。また、このキマーゼ阻害薬の機序として考えられるアンジオテンシンIIの局所産生亢進の関与を明確にするため、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、L-158,809を用いた実験を行った。L-158,809を用いたイヌのグラフト血管では有意にその内膜肥厚が抑制されていた(Life Sci.68:41-48,2000)。これらのことより、バイパスグラフト後の血管肥厚にはキマーゼ活性の上昇に伴う局所アンジオテンシンIIの亢進が重要な役割を果たしていることが示唆された。また、最近PTCAの再狭窄予防を促す薬物として日本循環器学会のガイドラインにも掲載されたシロスタゾールを用いて、イヌグラフトモデルの内膜肥厚に対する効果とキマーゼとの関連性について検討した。シロスタゾールは本モデルの内膜肥厚を有意に抑制し、キマーゼ活性を有意に抑制していた(Eur.J.Pharmacol.411:301-304,2001)。このことは、シロスタゾールの内膜肥厚抑制にはキマーゼ阻害作用が関与している可能性を示唆するものである。
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