発生工学的手法を用いた糖尿病性血管合併症発症機構の解明

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12770054
• 研究機関: 金沢大学
• 研究代表者: 山本 靖彦 金沢大学, 医学部, 助手 (20313637)
• キーワード: 糖尿病 / 合併症 / 血管障害 / 後期糖化反応生成物(AGE) / レセプター / トランスジェニックマウス / ノックアウトマウス

研究概要

糖尿病性網膜症に代表される糖尿病細小血管障害では、血管内腔を覆う内皮細胞が増え、逆にそれを取り囲む周皮細胞は減るという特徴的な変化が起こる。山本らは、糖尿病状態で促進的に形成される後期糖化反応生成物(advanced glycation endproducts、AGE)がAGE特異受容体(receptor for AGE、RAGE)を介してこれらの細胞変化をひきおこすことを血管細胞を用いたin vitroの系で明らかにした。
本研究の目的は、このような糖尿病性血管病変の発生とAGE-RAGE系の機能的関わりをin vivoで検証することである。
1.血管細胞特異的なflk-1プロモーターにヒトRAGE遺伝子を連結したトランスジーンをマウス受精卵に導入し、RAGE遺伝子を血管細胞で過剰発現する複数のトランスジェニックマウス(Tg)系統を得た。
2.得られたマウスでヒトRAGE蛋白の過剰発現を臓器・組織で確認した。
3.RAGE Tgを、インスリン依存型糖尿病を発症する別系統マウスと交配し、出生後早期より血糖値600mg/dl前後、ヘモグロビンA1c値9%前後を示す顕性糖尿病マウスを得た。
4.得られた同腹のダブルTg(WTg)、RAGE Tg、IDDMマウス、非Tg正常マウスの4群につき解析した。(1)血中AGE値は糖尿病群で同様に高値であった。(2)網膜症:WTgで有意な網膜電図上律動様小波潜時延長、網膜虚血野増大を認めた。(3)腎症:WTgで有意なアルブミン尿増大、血中クレアチニン値上昇、腎糸球体硬化病変を認めた。
5.マウスRAGE遺伝子標的ベクターを用いて、RAGE遺伝子相同組み換えによる変異が導入されたマウスES細胞株5クローンを得た。
したがって、RAGE過剰発現糖尿病マウスによってin vitroでも糖尿病性細小血管症におけるAGE-RAGE系の役割が明らかとなった。

研究成果

• [文献書誌] Yamamoto,Y.: "Roles of the AGE-RAGE system in vascular injury in diabetes."New York Academy of Sciences. 902. 163-172 (2000)
• [文献書誌] Tanaka,N.: "The receptor for advanced glycation endproducts is induced by the glycation products themselves and TNF-α through NF-κB, and by 17β-estradiol through Sp-1 in human vascular endothelial cells."J.Biol.Chem.. 275・33. 25781-25790 (2000)
• [文献書誌] Abedin,Md.J.: "Molecular heterogeneity of the receptor for advanced glycation endproducts."J.Biochem.Mol.Biol.Biophys.. 4. 373-381 (2000)
• [文献書誌] Nakajima,M.: "Relationship between interindividual differences of nicotine metabolism and CYP2A6 genetic polymorphism in humans."Clin.Pharmacol.Ther.. 69・1. 72-78 (2001)
• [文献書誌] 山本靖彦: "「実験医学増刊号"血管研究の最前線2000"」:糖尿病の血管障害"羊土社. 201 (2000)
• [文献書誌] 卯木浩之: "「臨床検査」:AGEレセプター"医学書院. 115 (2000)
• [文献書誌] 山本靖彦: "「糖尿病合併症」:AGEレセプター過剰発現糖尿病マウスにおける糖尿病性腎症の増悪"糖尿病合併症学会. 134 (2000)
• [文献書誌] 櫻井繁: "「血管医学」:AGE受容体シクナリングと血管壁細胞障害"メディカルレビュー社. 113 (2001)