糖代謝系酵素のL型ピルビン酸キナーゼ(PKL)遺伝子と脂質代謝系酵素であるS14や脂肪酸合成酵素(FAS)遺伝子のプロモーター領域内には炭水化物応答性エレメントが存在し、肝臓では血中グルコース濃度の上昇に依存して転写が促進される。このエレメントに特異的に結合する因子であるL-IIIBPのcDNAのクローニングを行い、炭水化物による遺伝子の転写促進機構を解明することを目的として本研究を行った。 至適化した人工の炭水化物応答性エレメントを餌にして、イーストのone-hybrid systemを用いて、ラット肝および卵巣穎粒膜細胞cDNAライブラリーのスクリーニングを行った。その結果、肝cDNAライブラリーからはポジティブクローンを得られなかったが、顆粒膜細胞cDNAライブラリーからは、upstream stimulatory factor2(USF2)がクローニングされた。そこで、ラットUSF2の詳細な特定を行い、報告した。 次に、PKL遺伝子の炭水化物応答性エレメントを用いて、前述のcDNAライブラリーをスクリーニングしたところ、肝cDNAライブラリーからhaematopoietically expressed homeobox(Hex)と呼ばれる転写因子をクローニングした。Hexの発現ベクターをPKL遺伝子プロモーター/ルシフェラーゼリポータープラスミドとともにラット分化型肝癌細胞MH_1C_1細胞にトランスフェクションを行ったところ、HexはPKL遺伝子プロモーターからの転写を抑制する事が明らかになった。現在、グルコース濃度に依存して転写活性が変動するかどうかを初代培養肝細胞の系を用いて検討中である。 また、FAS遺伝子の炭水化物応答性エレメントを用いて、肝cDNAライブラリーをスクリーニングしたところ、basic helix-loop-helix型転写因子をクローニングした。本因子は、絶食ラット肝では発現が低下し、高炭水化物食により発現が誘導された。また、糖尿病ラットにおいても発現が低下し、インスリン投与により誘導が認められた。現在、この因子についても詳細に検討中である。
|