SIX5遺伝子の発現量低下と筋緊張性ジストロフィー(DM1)病態との関わりを明らかにするためには、転写因子であるSIX5によって発現が制御される標的遺伝子群の網羅的検索を行うことが必須である。本研究ではその第一歩として、標的遺伝子群を効率よく検索、同定するための実験系を確立した。すなわち、転写活性化型VP16-Six5wtとDNA結合活性が著しく低い変異型VP16-Six5W241Rを発現する2種類の組換えアデノウイルスを細胞や組織に感染させ、VP16-Six5wtによってのみ短時間で発現量が増加する遺伝子を検索するという方法である。複数のSix5応答性レポーターを用いたレポータージーンアッセイ、標的遺伝子候補の1つであるmyogenin遺伝子発現のノーザン解析(C2C12筋芽細胞を使用)ではVP16-Six5wtによる特異的な転写活性化が観察され、本実験系の有効性が示された。そして、P19胚性癌腫細胞を用いて行ったcDNAマイクロアレーのスクリーニングの結果、筋分化を抑制する転写因子のMdfi、筋分化を活性化するシグナル分子であるIgf2、Igfbp5、Wnt11、神経繊維の投射に関わるSema3CとSema4Cをコードする遺伝子、さらにSix遺伝子ファミリーではSix2とSix5遺伝子が標的遺伝子候補として同定された。興味深いことに、myogenin遺伝子の活性化はP19細胞では検出されなかった。この結果は種々の培養細胞株や初代培養細胞、またマウス生体の組織にウイルスを感染させ標的遺伝子群の検索を行うことの重要性を明確にした。現在は、同様の方法でC2C12筋芽細胞、レンズ上皮細胞における標的遺伝子を検索中である。またIgfbp5遺伝子についてはプロモーター上のSix5結合部位、Six5遺伝子欠損マウスでの発現パターンについて解析を開始した。
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