昨年度はヒト口腔内扁平上皮癌を用い、p14ARF、p16、p53、MDM2、pRbに対する各抗体を用いた免疫染色による検討を行った。本年度も引き続き、同様の免疫組織染色を肺の扁平上皮癌及び子宮頚癌において行い、同時に子宮頚癌においてはPCR法及びIn situ hybridization法を用いたHPVの型判定も合わせ行った。肺扁平上皮癌においては免疫組織学的にp16とp53の異常がそれぞれ78%、60%でみられ、これら蛋白と発癌との強い関連が示唆された。また臨床病理学的には65歳以上の高齢者において特にp16の異常が高頻度に見られることや、中心発生性の癌は末梢性のものより、p53の異常とp14ARF発現の頻度が高いことが明らかとなった。一方子宮頚癌及びその前癌病変である異型成においてはp16の過剰発現と同時に、p14ARFの過剰発現が高頻度に起こっていることが明らかとなった。このp14ARFの発現は中等度異型成以上の病変で認められ、病変の進行度に従ってより高度になるものであり、かつHPV16型をはじめとする悪性型のHPV感染との相関が明らかであった。すなわちこれら一連の検討から、肺や口腔内の扁平上皮癌と子宮頚癌では、細胞周期調節因子からみた発癌の違いは明らかであり、肺および口腔内扁平上皮癌ではRb-p16 pathwayおよびp53-p14ARF pathwayのいずれかもしくは両方の異常が起こっているのに対し、子宮頚癌においてはp16、p14ARFの異常の頻度はきわめて低く、HPVによるRbとp53の機能不活化の結果のnegative feedbackによる高発現であることが推測された。
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