研究概要 |
本研究は、若年者に発生する甲状腺癌の特徴を解明することを目的としている。平成12年度には、以下の成果が得られた。 1.若年者の甲状腺癌を新たに数例集積することができた。これまでの症例に加え、臨床病理学的解析を行った。その結果、若年者群では、高齢者群に比べ、病理組織学的に低分化癌に相当する充実性成分が高率に出現するが、高齢者の低分化癌と異なり、臨床予後は良好である傾向が得られた。 2.細胞増殖能は、MIB-1(Ki-67)を用いた免疫組織化学的検討からは、若年者例の充実性成分は増殖活性が若干高い傾向が得られた。細胞周期調節蛋白の一つであるcyclin Dに注目して検索を進めている。これまでのところ、cyclin D1の免疫組織化学的発現は、甲状腺腫瘍全体で低く、組織像との関連性は不明であった。現在、RT-PCRによる検索および関連因子であるcyclinD2,D3,p16,p21などに関して検索を進めている。 3.Kroll T.Gらにより甲状腺濾胞性腫瘍における遺伝子異常としてPAX8-PPARgamma遺伝子再構築が濾胞性癌に高率に見出されると報告された(Science289,1357-1360,2000)。この新規遺伝子異常について、検索を進めている。まず、遺伝子再構成により発現の亢進が期待されるPPARgammmaの発現について、免疫組織化学的に検索した。結果は、濾胞癌での陽性率は5%と低く、年齢による違いは見出せなかった。現在、RT-PCR法での検討を進めている。 4.ret遺伝子再構成については、RT-PCRによる検索の結果、通常のret-PTCl,2,3は少なかったが、乳頭癌でcytoplasmic domainの発現が高率に認められた。年齢との関連は認められなかった。再構成のパターンに関して検索を進めている。 5.新鮮腫瘍組織の得られた症例については、primary culture後にGバンド法による染色体解析を行い症例の蓄積を進めている。 また、本研究の遂行にあたっては、個人情報の保護などに関して「遺伝子解析研究に付随する倫理問題等に対応するための指針」(厚生省)に則った。
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