テロメアは染色体末端に存在する繰り返し配列で細胞分裂の度に短縮し、細胞老化のマーカーとして注目されている。今回我々は、ヒト冠動脈硬化症の発生、進展における冠動脈内皮細胞の老化の関与を、テロメア長ダイナミクスの観点から検討している。 今年度はまず、今回の研究目的に応じたテロメア長の測定手技を確立し、急性冠症候群の有無による冠動脈内皮のテロメア長の変化に着目して研究を進めた。特に冠動脈のようなヒトの病理検体では、得られる組織量が極めて少なかったり、また組織検体の保存状態によっては染色体DNAが断片化してしまっている場合が多い。このような場合、一般的なSouthern blot法ではテロメア長の測定が出来ない。この問題の解消のため、Slot blot法を応用したテロメア長測定方法を確立し、研究発表を行った。このSlot blot法を応用した方法により、得られる組織量がSouthern blot法で用いる量の100分の一程度であってもテロメア長の測定が可能であり、また組織検体の染色体DNAの断片化にもほとんど影響を受けずにテロメア長の測定が可能である。我々はこのSlot blot法を応用したテロメア長測定方法により、急性冠症候群の既往が無く動脈硬化病変の無い冠動脈内皮のテロメア長は、加齢とともに徐々に減少(-0.38%/year)することを示し、研究発表を行った。また急性冠症候群の既往を有し動脈硬化病変を有する冠動脈内皮は、急性冠症候群の既往が無く動脈硬化病変の無い冠動脈内皮に比べ、有意なテロメア長の短縮がみられることを示し、これも研究発表を行った。 以上の所見をもとに、今後は分子病理学的に個々の血管内皮細胞レベルでのテロメア長を検討し、動脈硬化プラーク形成・進展過程における血管内皮細胞のテロメア長のダイナミクスとその結果生じうる細胞老化の関与を明らかにしていく予定である。
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